「Rの脆弱性と普及度について」
先日,某県の農業試験場から「R」を “公的” に導入する際の問題点について問い合わせがあった.試験場のコンピューターに R をインストールしようとしたら,システム管理者からの以下の質問があったそうだ:
- Rのソフトウェアとしての「脆弱性」に問題はないか?
- 統計言語としてのRの「普及度」を示す証拠はないか?
この二つの質問については,他の公的機関でも R インストールに際して同様の状況が起こりえると考えて,下記の回答を用意した:
【Rの脆弱性について】
- フリー・ソフトウェアのRは国際的な開発チーム(The R Project for Statistical Computing)によってしっかりサポートされ,頻繁にバージョンアップされている.そのホームページ(CRAN: The Comprehensive R Archive Network)を通じて最新バージョンをいつでも入手することができる.
- 全世界に大きなRユーザー・コミュニティーが存在しており(日本であれば,たとえば RjpWiki),脆弱性を含むバグやホールがあったとしても,早急に対応できる体制にあると期待される.
- フリー・ソフトウェアとして何か障害や被害があったときの責任はだれが取るのかという点についてはフリー・ソフトウェア/商用ソフトウェアの差異はないと思われる.たとえば,MS Word や MS Excel あるいは pdf ファイルに感染したウィルスによって被害が発生したからといって,提供元の Microsoft 社や Adobe 社を訴えたりできないだろう.フリー/商用に関係なく,ソフトウェアはユーザー個人あるいはシステム管理者の責任のもとで導入されるべきものである.
- 幸いなことに,脆弱性対策情報データベース(JVN iPedia)によれば,過去にRのセキュリティー上の問題が指摘された報告はたった一件しかない(→ 「JVNDB-2008-006199」2012年12月20日).もちろん,脆弱性が指摘されたこの旧バージョン(version 2.7.2)はすでにより新しいバージョンのRに置き換えられている
- Rの開発・維持・テスト・公開の作業工程がどのように進められているのかについては下記を参照されたい:The R Foundation for Statistical Computing「R: Software Development Life Cycle ― A Description of R's Development, Testing, Release and Maintenance Processes」December 15, 2014 [pdf]
【Rの普及度について】
- 統計言語としてのRの占有度については:SciStat「SAS SPSS R」(2015年8月27日)のまとめが参考になる(元記事:R-bloggers「Forecast Update: Will 2014 be the Beginning of the End for SAS and SPSS?」2013年5月14日).SAS や SPSS といったメジャーな統計言語のシェアが減少しているのに対し,R は着実にユーザー数を増やしている.その記事には「SAS、SPSS、Stata、R、JMPを取り上げ、その消長を予測している。筆者は、SAS、SPSSをおさえて、近い将来、Rがこの分野で首位を狙うと主張している」と書かれている.
- 一方,プログラミング言語としてのRについては,IEEE Spectrum「The 2015 Top Ten Programming Languages」(2015年7月20日)を見ると,トップ10の「第6位」に入っている.
- また,2011年のやや古い情報だが,〈統計インフラのつくり方〉 というサイトの「2. 統計ソフトの市場シェア」にも,Rユーザー数の大幅な伸びが報告されている.
- 直上記事が参照している元記事:r4stats.com「The Popularity of Data Analysis Software」は常時アップデートされていて,最新の統計分析ソフトウェア占有率比較は2015年10月17日時点の最新データに基いている.それによると,2014年時点での学術論文に使用された統計ソフトウェア・ランキングでは,第1位のSPSS(有料),第2位のSAS(高価!)に続いて,無料のRが「第3位」に位置している(Figure 2a).
- なお,農林水産研究情報総合センター(AFFRIT)にもRがインストールされていて(→ AFFRIT Portal「統計解析ソフト R に関する情報」),農水省系国研の研究者ならびに登録ユーザーであれば誰でも利用できる体制になっている.